村に拝み屋がいたという話

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90代の親戚から聞いたはなしにちょっとフェイクを入れつつ書いてます。

 

神様が住むという山の麓の、彼女が暮らす村にはむかし、「拝み屋」を生業にしている女性がいたという。

拝み屋というのは、霊能者であり相談役のことで、客は金銭を支払って物事の吉凶や行動の指針などを教えてもらう。

 

その拝み屋は、机の上に水晶玉よろしく大きなフタつきのツボを用意する。

ツボは売りつけるわけではなく、中には拝み屋と意思疎通のできる神がいて、神との対話で「客の悩み事」の答えを得て解決するのだという。

それを「神託」として伝える種類の、いわば霊能力者というわけだ。

 

ただ、彼女はその拝み屋を疑っていたようで、というよりむしろインチキだと確信していた。

あらかじめ、ツボの中に充満させた煙と、捕まえてきた蛇を入れておくのだという。

そして、客から悩みを聞き出し「神託」を得る段となると、適当なことを言いながら机を激しく叩く。

すると、ツボの中の蛇が驚いて暴れまわり、フタの隙間から煙が出てくる。

すかさず「ほれみろ!神様もこう言ってるぞ!」とまくし立てるのだ、とカラクリを話してくれた。

 

 

「拝み屋」という、どこかファンタジー味を感じる、蠱惑的な響きに熱心に耳を傾けてみたものの、ただのインチキ占い師の話でがっかりしたものだ。

とはいえ、

今でいう限界集落はもっと閉じた社会だったから、知識も情報も圧倒的に絶対量が少ない。

そんな中で、拝み屋は「迷える人」の背中を押すために必要な役割だったのかもしれないと思った。

神だと信じていたものが、蛇だったというのは気の毒な気もするが…。

 

何かを決めかねているときに、例えば「次に通る車の色が黒なら…、白なら…」と「賭け」をすることもある。

そこに、人知を超えた何かに答えを求めたくなる気持ちもわかる。

なんでもいいから、後押しが欲しいときもある。

 

 

面白いのが、インチキだと話してくれた親戚は、実はとても信心深い人なのだ。

日々、先祖代々の仏壇やお墓を綺麗にしていて、「ご先祖さまを大事する」という姿勢が伝わってくる。

先祖を大事にしていると、いざという時に守ってくれる、というような話を聞かされたこともある。

神社の鳥居に足を向けて寝るな、と注意をされたこともある。

そうなると、「不思議な力」の類を疑うところから、インチキを見破ったわけではないようだ。

 

しかし、若い時によく働き、家庭でも金銭的な苦労もし、そして長く生きているから、地に足がついていて現実主義であることには間違いない。

彼女と接していて、とても強い人間だと感じる。

その強さを支えている一つが、もしかすると「ご先祖さまを大事にする」ことなのかもしれない。

何か一つそういう基盤になるものがあると、インチキ占い師のようなものは必要なくて、自分で自信を持って決めていけるのかもしれない。

 

私はといえば、先祖を大事にしているか?と問われて、胸を張って答えられるほど「墓参り」をしていない。お線香のあげ方もよくわかっていない。

むしろ墓という形はいらないとまで思っている。

だけど、日々先祖に対する愛着や感謝のようなものは感じている。

儒教文化圏に生まれ育った者としては、広く共通するのかもしれないけれど、もしそれが支えになっているのなら、心強い限りだと思う。

いつかルーツを探ってみたい。

 

話は逸れたけれど、その拝み屋は今でも現役らしい。

どうやら、どこか他の集落へ行ったようだ。

煙の正体が何だったのか、蛇は何匹か家に飼っているのか、などを聞くのを忘れたのが悔やまれる。